不妊・不育について1人で悩まないで。 それぞれの生き方に寄り添い、ともに歩む相談室

 大分大学医学部附属病院内に相談室を構える、『おおいた不妊・不育相談センターhopeful』。不妊・不育に関する医学的な相談から心の問題まで、幅広い悩みに専門家が対応します。

(右)おおいた不妊・不育相談センター センター長を務める、大分大学医学部産科婦人科学講座 特任教授・名誉教授の楢原久司先生。不妊治療の先駆者としていち早く取り組み、現在も第一線で活躍する。(左)助産師であり、不妊カウンセラーの中島洋子さん。楢原先生と同じく、センターの開設当初から運営に携わる

新たな命を望む切なる思いに耳を傾ける

-平成13年(2001年)の開設以来、不妊・不育に関する数多くの悩みに寄り添い続けるhopeful。その歩みは20年以上にわたりますが、詳しくはどのような場所なのでしょうか?

楢原) 不妊・不育にまつわる多岐にわたる悩みを抱えた方が訪ねてこられます。 センター開設のきっかけは、国が少子化対策の一環として掲げた不妊専門相談センターの整備事業で、当時、各都道府県に多くの相談窓口が設置されました。その中でhopefulのように不妊カウンセラーが常駐する体制は全国でも珍しく、専門医の他、生殖医療にまつわる心のケアを専門とする臨床心理士、胚培養士が相談員として配備されているのも稀です。

中島) 相談は主に一般相談と、専門医、臨床心理士、胚培養士による専門相談の2つがあります。最初の入口となる一般相談では、不妊治療の検査や治療の流れ、その際に生じた不安や悩み、費用等に関する悩みなど。その後、悩みの内容に応じて専門相談をご案内しています。まずは電話またはメールにてお問い合わせください。
 

生殖医療のエキスパートが集結。 体と心の両面から進むべき道を照らす

-このような体制を確立した理由は何だったのですか?

中島) センターができた頃は、体外受精で生まれる赤ちゃんは100人に1人ほどでしたが、今は10人に1人です。社会の変化に伴い、求められる新たな支援は積極的に取り入れ、開所当時は電話のみでの相談でしたが、今は来所面談やメールでの対応もしています。また、苦しみや辛さにより気持ちが前に向かないというご相談には、生殖医療の知識がある臨床心理士に対応をお願いし、最近はインターネットの普及により、自ら情報を獲得し多くの知識を持っている方からのご相談も珍しくありませんので、生殖補助医療において重要な役割を担う胚培養士を相談員に加え、その時々のニーズに応えてきました。
 

気持ちを打ち明けることで心を整理。自らの考えを見つめ直す機会に

-具体的にはどのような相談が多いのですか。

中島)妊娠や出産を希望しているだけなのに、なかなかうまくいかない。周りは順調なのに、どうして、という想いが多く届きます。

楢原) 医師相談で大切にしているのは、2人が置かれている立場や仕事、経済力など、それぞれが抱える背景を理解した上で、医学的な分野とそうでない領域を分けながら相談者の悩みに耳を傾けること。状況がみんな違うのに、ただ医学的にこれがいいと伝えるのは違うと思いますから。例えば学問的には自然流産を3回以上繰り返すことを習慣流産と言いますが、患者さんからすれば1度経験するだけでもとても辛いのに、3度繰り返さなければ治療を推奨されないというのはとても苦しいでしょう。その気持ちに寄り添い、不安を和らげるのがセンターの役割だと思っています。また、悩むのと同時に焦ってしまうのが不妊・不育。そこを和らげるというのはとても難しいのですが、お話をする中で道筋を一緒に考えていけたら。次にやることが見つかると、心が少し楽になるという方は多いです。

顔が見え、心が通う医療との連携も強み

-相談室が大分大学医学部附属病院内にある、というのはやはり大きいですよね。人員体制はもちろん、相談後に院内での治療という選択ができるので信頼できますし、先生達との意思疎通もスムーズに感じます。

楢原) そうですね。通院先の病院では診察時間の兼ね合いから患者さんに遠慮が生まれ、中には質問を控えてしまう患者さんがいます。カップルの間で治療の方針や継続、休止に関しての全てを決めるというのは難しいことです。そこに私たちが加わり話し合いを重ねることで、2人が本音をさらけ出せるとこともあります。

-他の活動も…定期的に開催されている「語ろう会」とは?

楢原) 以前は、不妊の知識や情報が一般的に周知されておらず、患者さんの多くが現在よりも孤独な状況にありました。そこで、中島さんの提案で、当事者同士が気軽に話す場をつくることができないかと考え、誕生したのが「語ろう会」です。

中島) 同じ状況に悩む方達が集まることで、これまでの経験や思いを分かち合い、心の拠り所になることができたらいいと考えました。平成15年(2003年)からスタートし、現在も様々なテーマで開催しています。
 

自らのことも、大切な誰かのことも。心の戸惑いを気軽に伝えて欲しい

-ありがとうございました。最後にメッセージをお願いします。

楢原) 不妊・不育にまつわる相談を気軽にできる、hopefulという存在があることを、まずは多くの人に知っていただきたいですね。

中島) 近ごろは、“○○であるべき”という考えを持った方が多いように感じます。相談の場面でも「なぜ自分は?」とご相談いただくことがよくあります。話すことで、悩みを軽くする手助けができたら嬉しく思います。
 

おおいた不妊・不育相談センター hopeful(ホープフル)
電話 080-1542-3268(火~金曜12:00-20:00 / 土曜12:00-18:00
住所 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1丁目1番地大分大学医学部附属病院内
リンク https://hopeful.wp.med.oita-u.ac.jp/